研究概要
1. 研究の背景
三尖弁逆流症(tricuspid regurgitation: TR)は、心不全、肺高血圧症、心房細動、心内デバイスリード留置などを背景として発症・進行する弁膜症である。TRが進行すると、労作時息切れ、下腿浮腫、腹水、肝腫大、腎機能障害などの右心不全症状を来し、生活の質(QOL)の低下、心不全入院、死亡リスク上昇と関連することが報告されている。
標準治療としては、利尿薬によるうっ血管理、心不全治療、肺高血圧や心房細動など基礎疾患の薬物治療が中心である。外科的三尖弁手術は、左心系弁膜症手術等と併せて行う場合や、重症TRで右心不全症状を有する場合に考慮されるが、単独三尖弁手術は患者背景が高齢・多併存疾患であることも多く、周術期リスクが高いことが課題であった。
近年、外科的手術リスクが高い重症TR患者に対する低侵襲治療として、経カテーテル的三尖弁接合不全修復術(T-TEER)が臨床導入されている。T-TEER で用いられるTriClipシステムは、大腿静脈アプローチにより三尖弁弁尖を把持し接合を改善することでTRを軽減するデバイスであり、米国でFDA承認を受けている。日本においても、TriClipシステムは2025年に製造販売承認を取得した。国内では、重度TRを有し、薬物療法で症状が十分改善せず、高齢や併存疾患などにより外科的手術が最適ではないと判断される患者に対する新たな低侵襲治療選択肢として位置づけられている。
TriClipを用いたT-TEERについては、海外の臨床試験およびレジストリにより、安全性、TR重症度の改善、症状・QOL改善に関するエビデンスが蓄積しつつある(1,2)。一方で、現時点では、心血管死亡、心不全入院などのハードアウトカムに対する効果は十分に確立しているとはいえない。特に日本人患者における実臨床データはまだ限られており、本治療法をわが国の患者に有効かつ安全に提供するためには、慎重な適応検討と安全かつ効果的な手技が可能な施設において実施すると同時に、そのデータを蓄積して、わが国における本治療法の位置づけを確立していくプロセスが必要と考えられる。
TriClipを用いたT-TEERは、FDA承認、日本での製造販売承認を取得しているが、これまでの症例数は限られており、今後の我が国での実臨床患者における安全性、有効性を評価することが求められる。日本循環器学会は、本治療法の適応基準、実施施設基準を策定し、その中で、本治療を施行した患者の全例登録を実施施設となるための必要条件とした。この登録データを用いた全国的な治療実態調査を通じて、わが国における本治療法の効果、安全性について詳細に考察、検討することが必要であり、本研究を開始するに至った。
2. 研究の目的
本登録研究は、我が国で、TRを有する患者に対するT-TEERの安全性、有効性を明らかにすることを目的とする。日本循環器学会を主実施機関として日本心臓病学会、日本心不全学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー図学会、日本心臓血管外科学会が協力し、データ集積管理ツール(EDC: Electronic Data Capture)を活用したオンラインレジストリーシステムを整備する。
3. 研究の対象患者および方法
本研究は、T-TEER にて治療を受けた患者を対象とする。本登録研究で使用するデータは、 本治療法の実態を調査するための全例登録によるデータであり、除外基準は設けない。
4. 目標症例数
目標症例数:1200例
目標症例数の設定根拠:これまでの診療実績から、施設数が一定となった場合、対象となる患者は年間200-300件程度と見込まれるため、研究期間中の実施可能例数として設定した。
5. 観察項目・調査スケジュール
下記のデータを収集する。いずれも通常診療内で得られた項目を収集する。追跡調査は、退院時、1ヶ月、1年、2年時とする。
| 評価項目 | 内容 |
| 患者背景 | 同意の有無、初回診断日、年齢、性別、身長、体重、BMI、バイタルサイン、既往歴、生活歴、入院前の心不全入院の有無、NYHA分類、内服、血液検査所見、心電図所見、心エコー検査所見 |
| 手技施行状況・合併症 | 手技日、入院日、手技の種類、デバイスの種類・数・型番等、手技情報(穿刺部、時間経過、治療前後の三尖弁閉鎖不全症の重症度、心内圧、心エコー検査所見、透視時間、造影剤使用量、治療内容)、手技中合併症の発生有無 |
| 退院時所見 | 退院日、体重、バイタルサイン、NYHA分類、内服、血液検査所見、心エコー検査所見 |
| 追跡調査(1ヶ月、1年後、2年後) | 来院の有無、来院日、体重、バイタルサイン、NYHA分類、内服、血液検査所見、心エコー検査所見 |
| 有害事象 | 有害事象の有無、有害事象発生日、有害事象名、発症時期、手技・機器との関連性、治療内容、転帰 |
| 機器不具合 | 機器不具合の有無、機器不具合発生日、発生時期、不具合発生機器、不具合の内容、不具合による有害事象 |
| 調査終了 | 調査終了日、調査終了理由 |
6. 研究期間
予定研究期間:研究許可日~2036年3月31日
うち症例登録期間:研究許可日~2032年3月31日
追跡調査期間:研究許可日~2034年3月31日
7. 研究組織、研究責任者およびデータセンター責任者
主導学会:
一般社団法人 日本循環器学会
研究責任者:
小林 欣夫 日本循環器学会代表理事
(千葉大学医学部附属病院 循環器内科 教授)
データセンター責任者:
岩永 善高 (国立循環器病研究センター)
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※本研究は認定施設のみの参加となります。
